MANちゃんのアンサンブル講座 その6:アンサンブル練習のポイント

指導(練習)のための準備・アナリーゼ

作曲家の時代様式、作風、楽曲の形式等を考慮して、テンポ、ダイナミクス、アーティキュレーションを決定する。
バロック(17~8世紀、バッハ、ヘンデル、アルビノーニ、ヴィヴァルディなど)、古典派(18世紀、ハイドン、モーツァルトなど)はダイナミクスやアーティキュレーション(スラー、スタッカート、マルカートなど)が記されていないか、まったく時代様式を無視し、間違ったものが記されていることが多いので、事前に調べて、正しい解釈をもとに、付け加えるか訂正しなくてはならない。  
上記のようなバロック、古典作品の現在出版されている楽譜は相当無責任なものが多く、あまり信用してはダメ。 え?「楽譜どおり正確に演奏しろ」っていわれたの?それが実はちがうんだな~。  
19世紀以降の作曲家たちは自らいろいろ楽譜に書いているが、バロック時代はまったく「f、p」や「スラー、スタッカート」などは書かず、演奏者にゆだねられていた。だから演奏者はダイナミクスやアーティキュレーションをどうするか、その当時の習慣をもとに決めていたんだ。
そこで我らも当時のダイナミクスやアーティキュレーションのつけ方の習慣を学び、それをもとに演奏する。
これがバロックの雰囲気をしっかり表現するコツ。
楽譜専門店や大きな書店で、17~8世紀のアーティキュレーションやダイナミクス、またトリルや装飾音のつけ方に関する本がいろいろ出版されているから参考に。

難所の練習

テクニック的に難しいところは事前に要チェック。合わせの前に、個人的に音階練習、フィンガリング練習(難所をピックアップ)、タンギング、リズム練習を計画的にやること。
また、旋律と和声の進行から、ハーモニーのバランス、ブレスの位置もスコアにメモすることも大切。
フィンガリング練習にはトリルの練習も必ず取り入れること。フレーズの終りにトリルが入ることが多いから、ピッタリテンポでカッコよく終われるように。 トリルの数は必ず決めておくのも忘れずに!
せっかくうまくいったフレーズも、最後でテンポにはまらなかった、なんてことにならないようにね。
上記2点は、「企画構成はしっかり!」ということだ。

リーダー決定!

アンサンブルは指揮者がいない。だからその役目が必要だ。メンバーの力関係は同等であるのが理想だが、一応リーダーを決めておかなければならない。  
通常は旋律を多くとる1stパート。曲のスタート(アインザッツ、と業界では言う)やフレージング、テンポの変化などを、目線、ちょっとした身体の動き、ブレスで合図を送る大切な役だから、しっかり肝に銘じておこう。
リーダーはアインザッツの出し方を良く練習すること。指揮者になったつもりでね。

ポイントはリレー練習

アンサンブルの基本はピッチ、イントネーション、ハーモニー、リズム、フレージング、バランス、ダイナミクスレンジにある(これ音楽の基本だよね…)。
 これらのレベルアップのための効果的な練習方法は「リレー練習」。1つの音やフレーズを次々に吹いて、受け渡していく練習。
例えばユニゾンだったら、みんなで一緒に吹くより、1人ずつ順番に同じ旋律を受け渡しながら演奏するほうが、音程、テンポ感、リズム感、表情のつけ方、ダイナミクス変化の違いが良くわかる。
何度も繰り返し、この練習をすることで、音程はもちろん、リズム、音型やアーティキュレーションにいたるまで揃ってくる。
アンサンブルでは、同じテーマ、旋律が各パートに良く出てくるから、このモティーフの吹き方を揃えるのに、最も効果的。

ハーモニーのトレーニング

日常的にメンバーが集まって、以下の方法でハーモニーの基礎トレーニングやろう!

  1. 三和音の基本形(ドミソやソシレ等)で根音とユニゾン、オクターブを合わせる。
  2. 次に完全5度上の音を合わせる。
  3. 完全5度が美しくピタリとはまったら、3度の音を合わせる。3度の音は、長3和音ではやや低め、短3和音ではやや高めが美しい響き。
  4. バランス(ダイナミクス)を整える。完全5度の音はちょっと控えめ。3度の音はしっかり目の音量で、でも音色は柔らかく。

これが一般的なハーモニーの作り方の常識。 楽器だけでなく声で練習すると、より効果的だ。歌って美しいハーモニーを表現できれば、必ず楽器でもできるはず。正しい音感が身についたことになるね。
また、和音の種類や配置によって音程のとり方が微妙に変わってくるから、いろいろな和音で練習しなければならない。

アンサンブルまとめ

多くのグループの演奏を聴いているが、いつも感じるのは下記のこと。

  1. アンサンブルの基礎練習はやっているのか
  2. 楽曲のアナリーゼはしっかりなされているか
  3. 選曲はいったいどうしているのか?

音楽をやる上で必要なことばかりだが、意外とできていないよね。
例えば「2」のアナリーゼについて。 これは音楽を表現する際、作曲家の時代背景や当時の様式、思想や哲学による作風、また当時流行っていた楽曲の形式や慣習などを学び、テンポ、ダイナミクス、アーティキュレーションを決定し、演奏しなければ、どんなにテクニックが優れていても感動を与えることはできないし、音楽を本当に楽しむことはできない、ということだ。  
音楽大学や音楽専門学校では必ず「音楽史」という授業で勉強するが(実際はこの授業だけでは足りないが)、それを知るための本や資料(WEBサイト等)は数多くあるから、自ら勉強できるはず。先生に聞いてもいいけどね。
いろんな知識を諸君の頭にインプットしたら、今度はたくさんCDやコンサートで良い音楽(一流の演奏家による)を聴く。 何も知らずにいた時とは聴き方(聴こえ方)がまったく違うぞ。今まで気がつかなかったことが聴こえてくるはずだ。
時代や作曲家によって、スタッカートやスラー、テヌートやマルカート、ダイナミクスやクレッシェンド・ディミニュエンドの具合、トリル(主音からか、補助音からか、後打音等は?)、アゴーギク、rit.のかけ方、テンポ設定(例えば同じAllegroでも作曲家、時代によって速さが大きく違うぞ)などの違いが聴こえ、理解できるはずだ。
楽譜に忠実な演奏とは、楽譜に記された(指示された)テンポ、ダイナミクス(f・pやクレッシェンド・ディミニュエンド)やアーティキュレーション等をワンパターンに表現するだけではダメ!…ということ。
音符の価値も、同じ4分音符でも少し短くても、それが最適だったりするからね。
これがアナリーゼだ。 しっかりアナリーゼをしていれば、練習目標もしっかり定まる。そして、諸君の演奏は感動を呼ぶ。
でも1つ忠告。
今は21世紀。現代に生きるわれわれは、17~8世紀の感性とはまったく違うのは言うまでもない。
楽器の機能も当時よりもはるかに優れている。新しい発想と高性能楽器で表現の幅は広がる。当然「楽譜に忠実な演奏(正しい意味での)」だけでは物足りなくなってくるだろう。
21世紀。 何をやってもいいが、「すべてを知った上で、はじめて独自の演奏スタイルが生まれてくる。」ということを心して!!
知識を持って演奏するのと、まったく知らないのとでは、その説得力、インパクトは雲泥の差だ。