MANちゃんのアンサンブル講座 その2:アーノルド/3つの船乗りの歌(木管五重奏)

マルコム・アーノルド: 「3つの船乗りの歌 Op.4」

Marcolm Arnold: Three Shanties for Wind Quintet Op.4

出版:PATERSON’S PUBLICATIONS;

天才!多才!アーノルド

アーノルドの正式名は、サー・マルコム・ヘンリー・アーノルド。「サー(Sir)」はイギリスで男爵の称号。えらい。
1921年生まれで、もともとはトランペット奏者。21歳でロンドン・フィルの首席を務め、その後作曲家に転向。クラシック曲だけでなく映画音楽も数多く手がける、多才な、イギリスを代表する作曲家。
6つの交響曲をはじめ、管弦楽曲、バレエ音楽、室内楽曲、合唱曲、協奏曲などほとんどのジャンルで数多く作品を残している。オーボエコンツェルトもあるぞ。
映画音楽に関しては、彼の手がけた作品はどれも1950~70年の名作ばかり。
「戦場にかける橋」の「クワイ河マーチ」、「第六の幸福をもたらす宿(邦題・六番目の幸福)」、「テレマークの要塞」、「地中海夫人」など例を挙げたらきりがないほど。
中でも「戦場にかける橋」と「第六の幸福をもたらす宿」はアカデミー作曲部門賞を受賞している。「クワイ河マーチ」。ついつい口ずさんでしまうほどだね。
アーノルドの作風は、前衛的ではないけど非常に現代感覚にあふれている。楽器の特色や特性を活かした個性的なサウンドと、とても親しみやすい旋律を絶妙なバランスで融合させた表現は見事。
アーノルドほど、1回聴いたら忘れられないメロディを作り出す作曲家は、世の中、そうはいないだろう。
でもアーノルドは吹奏楽界ではメジャーな存在だけど、一般クラシック愛好家のなかではマイナー。 なんでだろう?
2006年9月23日、肺感染症により死去。享年84歳。追悼。

海の男の歌、「シャンティー」

アーノルドは室内楽曲を30作品ほど書いているが、どれも個性的で楽しい曲ばかり。
各管楽器の無伴奏ソロ曲、クラリネットデュオ、木管トリオ、金管五重奏等、管楽器のための作品は数多いが、木管五重奏曲はこの「3つの船乗りの歌」だけ。 もっと書いて欲しかったね。
シャンティー・Shantiesは海の男、水夫たちの歌という意味。
日本には「そうらん節」という海の男の歌があるけど、このシャンティーはイギリス、17~8世紀海洋国家時代の船乗りの労働歌だ。
海の男の勇壮な曲や酒場で歌う陽気な曲、静かな哀愁のある曲や軽快でコミカルな曲といろいろ。じつにバラエティーに富んでいる。
ちょっと「そうらん節」とは趣が違うね。もし興味があったらRobert Shaw合唱団「Sea Shanties」(BMGファンハウス)を聴いてみてくれ。男声合唱のシャンティーの魅力を存分に堪能できるぞ!
その17~8世紀当時歌い継がれた数多くのシャンティーの中からアーノルドが3曲選び、脚色して木管五重奏曲にしたのが「Three Shanties Op.4」。 この5重奏曲を構成する3曲には題名は付けられてない。
軽快な1、ちょっとゆったり2、ワルツ様3拍子をはさんだ、軽快で力強い3。
描写音楽のような作品だが、あえて題名を記さなかったのは、演奏者の自由な発想を尊重したためかもね。
勝手にいろいろな場面や風景を思い浮かべてみよう!

港の喧騒と広大な海

演奏のポイントはイメージをしっかり頭の中に描くこと。 このあとの解説はMANの描いたイメージ。だからあくまでも参考程度にしてほしい。先入観や固定観念にとらわれず、諸君の自由な発想で表現しよう!

1:Allegro con brio (活気のあるアレグロで!) 2/4拍子 テンポ四分音符=144(がおすすめ)

港であわただしく出航準備におわれているところかな。
全体通して軽快なスタッカートで演奏するが、アクセントや休符の正確な表現(音価をキッチリ、またしっかりタメを入れる)が重要。
ダイナミクスも、アーノルドがかなり正確に記してあるから、表記とおりにすれば良い雰囲気を作れるね。 各パートの役割が明確に認識できるまで繰り返し練習をして、各自主張するところは積極的にしっかりと。
途中2/2拍子のんびり、出航準備もひと休み。ほっとひと息ついていたら、突然の出航合図。Prestoで、慌てて船に乗り込んだ!四分音符=160超でもいいね。

2:Allegretto semplice (アレグレット、素朴に) 6/8拍子 テンポ四分音符=60(またはもう少しゆっくりでも)

あわただしい出航、港の喧騒のあとしばらくして、波もおだやか、凪いでいる海の夕暮れ。水平線には沈み行く赤い太陽。…かな。
ゆったりした旋律はレガートが勝負。安定した息をまっすぐ、ロングトーンをやっているように出して、美しくスラーをかけよう。
でもフィンガリング、指の動きは常に素早く!これが美しいレガートのコツ。
途中クラリネットとファゴットに8分音符スタッカートが記されているが、鋭く硬くならないように。凪いだ海にちょっと波が砕け散った様子を柔らかく表現しよう。

3:Allegro vivace (活き活きとしたアレグロ) 2/4拍子(3/8拍子) テンポ四分音符=144Allegro vivace(と記されているが1曲目とほぼ同じテンポ)

力強い冒頭の旋律は大漁を祝う雄叫び。港に帰ってきた船乗りは酒場で飲み、踊り、酔いつぶれてテーブルでウトウト…。
途中3/8拍子、5/8拍子の♪の価値は2/4拍子の♪と同じ。基本的にテンポを維持することで、踊ったり騒いだりする雰囲気をうまく表現できる。
ホルン以外のパートに32分音符のスケールがでてくるけど、グリッサンドのように勢いよく表現しよう。息の力を絶対に抜かないのがポイント。
ホルンのゲシュトップ・グリッサンドは「これでもか!」と思いきって強調。カッコイイね。
アーティキュレーションは全般に軽快でクリアなスタッカートがベスト。力強さを表現するときはスタッカート長め、マルカート的にすると品がよく、粋だ。
ダイナミクスは表記のとおり、ハッキリ、クッキリ、メリハリをしっかりつけることで、楽しくコミカルな様子を表現できる。

この「3つの船乗りの歌」はアンサンブルコンテストに最適。
全部で9分程度だが、1+3の組み合わせで5分位だからおすすめだね