1. その1:ハイドン/ディベルティメント

アンサンブル講座 その1:ハイドン/ディベルティメント

ヨゼフ・ハイドン:ディベルティメント 変ロ長調
Joseph Haydn (Arranged by Harold Perry):DIVERTIMENTO for Fl,Ob,Cl,Hrn,Fg
出版:BOOSEY&HAWKES

<<目次>>
■ 交響曲の父は多作

交響曲の父とよばれているFranz Joseph Haydn(フランツ・ヨゼフ・ハイドン1732~1809)は古典派音楽の最も重要な作曲家。 多作家であり膨大な数の作品を残している。例えば交響曲104、歌劇20超、弦楽四重奏84、ピアノソナタ56、その他協奏曲、ピアノトリオ、宗教音楽など…。
そしてディヴェルティメントは60曲も作曲した。
ソナタ形式による優れた作品は、モーツァルトやベートーヴェンに多大な影響を与えている。  
「ディヴェルティメント 変ロ長調(木管五重奏版)」は「6つの野外組曲(Feldpartiten)Hob.2-41-46」の第6番が原曲。2Ob・2Cl・2Fg・2Hrn、または、2Ob・2Hrn・3Fg・セルパン(これがオリジナル。セルパンとはチューバの前身とも言われる低音金管楽器)という管楽八重奏で1780年、軍楽隊のために作曲された。  
1:Allegro con spirito 2:Andante quasi Allegretto 3:Menuetto 4:Rondo Allegretto の4つの楽章で構成されている。
この第2楽章にChorale St.Antoni(聖アンソニーのコラール)と題名が書かれている。このコラールの由来はいろいろな説があり定かではないが、古い巡礼歌であり17~8世紀に流行したメロディと言われている。 聖アンソニー(アントーニともいう)はキリスト教、エジプト出身の聖者で、貧しい人に財産を与え、苦行に身を投じ、紅海(アフリカ東北部とアラビア半島にはさまれた海)の近くで百歳まで生きたと言われている。聖アンソニーを題材にした絵画もたくさんある。

■ ディヴェルティメントはBGM?

「ディヴェルティメント」とは日本語では「嬉遊曲(きゆうきょく)」。 元はイタリア語。意味は「娯楽」、「気晴らし」ということ。18世紀後半に流行した貴族のための娯楽音楽で、食事やパーティーの時のBGM(バックグラウンドミュージック)みたいなもの。 この気軽で楽しい音楽を古典派の作曲家、特にハイドンやモーツァルトはたくさん書き残している。ということで…たまにはテレビを消して、ハイドンのディヴェルティメントを聴きながら食事、な~んていかが?ぜひお試しあれ。

■古典は意外と難しい!

楽譜を一見するとスッキリしていて簡単そうだ。しかし、音の処理、正確にコントロールされたフィンガリング、アタックのニュアンス、スラー、スタッカートやマルカート等のアーティキュレーション、トリル、またハーモニーのバランスやイントネーションを一つ一つ緻密に作り上げていかないと、美しいサウンドにならない。
かなりしっかりしたテクニックと音楽的センスが必要だから、毎日の音階練習やフィンガリング等の基礎練習、また、ハーモニートレーニングを欠かさないことだ。

■ポイントはアウフタクト

第1楽章では8分音符のアウフタクトが頻繁に出てくる。特にスタッカートは付いていないが、短め、キッパリシッカリ、スタッカート・マルカート的に表現しよう。3小節目の1拍目とアウフタクトの8分音符は少し間があいていることになる。  
この表現で1拍目が開放感のある響きになり、軽快で自然な流れのある旋律になるんだ。
要注意は2小節目の4分音符に付いているスタッカート。これは通常のスタッカート表現ではなくマルカートに近い感じ。「バシッとここで決めよう!」的なイメージで。
第1楽章のおすすめテンポは四分音符=126~132。 2小節目、2拍目のトリルは5連符が最適。トリルは適当に入れてはダメ。必ず数を決めて、テンポにピタリとはめることが大切。

■崇高で爽やかなコラール

さて「聖アンソニーコラール」の第2楽章。
テンポは4分音符=56が最適。あまり遅すぎるとベターっとして爽やかさを失う。とても美しい旋律なので、つい感情表現過多になりがちだが、ゆったりしたテンポでも、淡々と流れるイメージが大切だ。  
アーティキュレーションはほとんど記されていないが、基本的にはテヌートが良いだろう。でもあまりベタベタしないように。  
ダイナミクスはpp~ffまで記されているが、極端なppやffは不要。無理して小さい音にすることはない。ラストのffも大きすぎないように。堂々とした感じが出ればOKだ。  
B♭の伸ばしはメロディを尊重して美しく柔らかい響きを大切に!終りはsmorz.(スモルツァンド)、だんだん消えていくように。フェイドアウトで遠くに行ってしまったイメージで。
さあ、この美しい「聖アンソニーのコラール」で爽やかな気分に浸ってくれ!

■メヌエットは社交ダンス

18世紀フランスで流行した社交ダンスの音楽がメヌエット。フランス語で「小さい」という意味。
後のワルツのような大きな動きはなく、姿勢をまっすぐに保ち小さくステップを踏む、4分の3拍子で速からず遅からずのテンポの優雅な踊りだ。
当時の作曲家たちはこのメヌエットを組曲の中に好んで取り入れ、音楽様式として発展し、しっかり確立。ということでハイドン・ディヴェルティメントにも第3楽章にメヌエットが登場する。  
さてテンポ設定だが、速からず遅からずとはどのくらいか。おすすめは4分音符=144~160。
2小節単位で進行するが、フレーズの基本は8小節。TRIOとD.C.の前はフレーズの区切りを明確に表現するためにちょっと変則的なので注意。特にTRIO3小節前の全休符は大切だ。
またスタッカート等のアーティキュレーションは特に記されていないが、軽めでスタッカートに近いマルカートが良いだろう。アウフタクトを大切にしながら小節の頭、1拍目を強調すると自然な流れで音楽が進行する。
ダイナミクスの変化もしっかりと!冒頭のfはキッパリとクリアに、TRIOのpは軽さキープしながらちょっとやさしくdolceかな。コントラストを意識するとおもしろいぞ。

■ぐるぐる回る!ロンド

ロンドとは「回る」という意味。最初の旋律が何度も繰り返し、ぐるぐる回るように登場するのでこの名前がついた。
ここでも3回、8小節単位の冒頭フレーズが使われている。
今回取り上げたPerry編曲版はかなり細かくダイナミクスを指定しているが、基本的にこのメロディがでてきたらキッパリfが自然な表現だ。
8小節フレーズの中で変化をつけすぎるとちょっと不自然でわざとらしい表現になる。テンポはAllegrettoと指定されているが、2拍子の軽快なRONDOを表現するにはかなり速いほうが良いだろう。 おすすめは4分音符=144。これより遅いとちょっともたついたRONDOになってしまい、速すぎるとあわただしく、優雅さが失われる。
それほどむずかしいフィンガリングではないので大丈夫!  アーティキュレーションついてはアクセントやスタッカートが多少記されているが、基本的に♪はスタッカート、4分音符はマルカートで。p・dolceでも常に軽快な雰囲気を忘れないようにしよう。
2小節間にクレッシェンド・ディミニュエンドが付いているところがあるが、あまり意識する必要はない。やりすぎるとかえって不自然だ。  
冒頭メロディが最後にもう一回でてきて2カッコのあとは終止形。fで元気良くいっきに吹ききろう!rit.はなし。特にラスト5小節間はホルンが重要だ。ポストホルン(むかし郵便馬車がその到着を知らせるために使用した信号ラッパ)をイメージしてffで演奏しよう。  
このディヴェルティメントはリピート記号がフレーズごとに全てに付いているが忠実に従うとかなり長い。そこでアマデウス・クインテットで演奏するときのリピートスタイルを紹介するので参考に!
・第1楽章:アリ・ナシ
・第2楽章:アリ・ナシ
・第3楽章:アリ・ナシ/TRIOアリ・ナシ/D.C.後ナシ・ナシ
・第4楽章:アリ・ナシ・アリ・ナシ(1カッコなし)
好きな楽章を組み合わせ、リピートを工夫すれば時間設定は自由自在なのでアンサンブルコンテストにも適している。ぜひ挑戦してくれ!  
もうひとつ。アマデウスクインテットでの演奏では、この4楽章のクラリネットパートの旋律部分をオクターブ上げて演奏している。 その方がしっかり旋律が聴こえてくるのでお試しあれ。 ハイドン、おしまい

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